都市の内外と愛郷心について

都市について、よく欧州の市壁都市の市民は
愛郷心が高いといいます。
それは日本の市民とは違って、
欧州の市民が、自分の都市の歴史観だとか、
伝統・文化などを非常に重んじるからだということもできます。

英国・ヨークの都市も市壁都市です。
コンスタンティヌス帝以来、千何百年の歴史を経て、
この都市は作り上げられてきたわけです。
都市は、ヨークミンスター(大聖堂)とヨーク城跡を中心に
市壁に囲まれ、街を形成しています。


日本という国は、非常に犯罪発生率が低いと言われます。
日本人は海外に行けば、その土地の人では信じられないことですが、
鞄や財布を、たとえば平気で店のテーブルに置いて注文に行くなど
非常に犯罪に対する意識が低いといわれます。
それは日本が、近年それが高くなってきたとはいえ、
世界的に低い犯罪発生率の中にあって、
そして安全な生活を送って来れた証拠であると考えることができます。

さて、その犯罪発生率の低さでいえば、
ヨークも同じくいうことができます。
英国でいえば、ロンドン(それが東京の2,3倍)と比較しても
ヨークは、たとえ女性であっても、
日本同様に安心して一人で街に出ることができる都市であるわけです。

ヨークの市壁は、その市民の安全な生活を守ってきたということができます。
壁の外と比較しても、内は建物が整然と並んでおり、
そして、外が車が多く走るのに対して、
内は人が歩いてショッピングなどをする、といったように、
壁は、外の敵から内を守ると同時に、
その内をまさに整える役割を果たしているわけです。


しかし、壁というものは市民の安全な生活を守ると同時に、
市民に、壁の内を整然たらしめる、
すなわち、街を丁寧に扱うことを要求させるわけです。
街は、シンボルを中心に形成されます。
シンボルは、その歴史とともに、
街を守る、神のような存在としてあがめられ、
そして、同時に街に対する愛着心を要求します。
つまり、それが愛郷心につながるわけです。
都市の人々は、街のシンボル、そしてそこから広がる街そのものに対し、
非常に愛着心を覚えている。
そして、その愛着心があるからこそ、
都市はその機能を維持することができ、
延いては、市民の安全な生活を約束するのです。


さて。この市壁について、
日本にも同様なことが言うことができないかとも思えます。
それは、日本の周りを取り囲む、海です。
まさに、海の外である海外と、海の内である日本国内を区別し、
そして、日本国内の国民による愛着心は生み出され、
(それはつまりナショナリズムですが、)
日本国内の安全な生活は守られてきた、
と考えることも、できなくはないわけです。


まぁ、小都市と一国を比べるのには多少無理がないわけではないですが、
いずれにせよ、
愛郷心こそ安全な生活を約束させるし、
またそこに住むからこそ感じるその土地への誇りが
その愛郷心を生む、ということは、一つに間違いはなさそうです。
よく愛郷心とは何か、愛国心とは何か、という
非常に不毛な議論が巷では起こるわけですが、
そういったナショナリズムの観点からではなく、
他の観点、たとえばこうした都市の生成過程という側面などから
考えてみると、また違った議論ができるかもしれません。