日本の鉄道でこそ味わえる旅情

日本に帰ってきて早一週間経ちますが、
イギリスでの数々の経験は今でも新鮮です。
イギリスでの話を今回でとりあえずしめくくるとして、
最後の話題を何にしようかと考えたとき、
ゼミの話も絡めて、鉄道の話にすることにしました。


まずとりあえずゼミについて軽く触れておきます。
今私は、交通論のゼミを履修しています。
で、担当の教授は鉄道政策が専門であり、
鉄道建設などのシンポジウムなどがあると
けっこう呼ばれているほどの先生です。


そもそもなぜこのゼミを履修したのかというと、
一応公式には、昨今話題になっている
新しい形の路面電車について勉強した後で
それを発展させて勉強したかったから、
と説明していますけれども、
実際はもっと単純で、
鉄道そのものが好きだからです。


まぁ鉄道が好きといっても、
これはよく誤解されがちな話ですが
オタク的に、「○○系が好き」だとか
そういう方面に興味があるというわけではなくて、
(まぁもちろん知識は少なからず持っていますが。)
鉄道そのものの魅力であったりとか、
鉄道の持つ実用性、あるいは
鉄道が地域社会だとか、商業に果たす力について
興味があるというわけです。
鉄道好きということに関して
鉄道オタクに言わせれば、
「こんなのは幼少の鉄道好きの延長ですよ」
という形になるみたいですが、
中学生から高校生にかけて、
私は「それではいかんな」と思ったわけです。


「それではいかんな」と思った理由ですが、
第一に、これは非常に単純に、
鉄道オタクが一般的に奇妙に見られていることであり、
またそう自分にも思えたこと、
そして、またそういう立場にはなりたくないと思ったことです。
そして、これはその契機ともなったことですが、
第二に、鉄道、特に日本の鉄道について、
単なる知識やオタク的な議論では終始できないほど、
魅力が兼ね備えられているものであるし、
また、それについて考えていかなくてはならないと
感じたことです。


日本の鉄道の魅力について、
またこれを語りだすと非常に長くなるので
ここではそのほとんどを割愛することとして、
ただ一点述べておくとすると、
まぁこれは鉄道に限らず日本の風景全般に言えることかもしれませんが、
特に鉄道旅行に際して、
実は非常に細かく景色を楽しむことができる、ということであり、
また同時に、鉄道に乗ることだけでも
十分に風情を満喫できるということが挙げられます。
たとえば、どの路線について考えてもいいのですが、
ベタなところで東海道新幹線について考えるとしましょう、

東京から新大阪まで東海道新幹線に乗ろうと思ったとき、
まず東京駅で駅弁を買う、という乗る以前から
日本の鉄道の魅力はある。
そして、その蓋を車内で開ける。
実は駅弁というのは非常に凝った作りがされていることが多くて、
もちろんその分値段は高いのですが、
その旅情を思わせる作りや味から、
京王百貨店の駅弁大会で買って家で食べる以上に、
走る電車の中で食べると
特に理由もないですが、おいしく感じられるものです。
ましてやそれが夜ならば
ビールを片手に、というのであればよりいっそう良い。


次に、電車が動き出すと、
車内アナウンスの前に、鉄道唱歌や、
アンビシャスジャパン」か「いい日旅立ち・西へ」
が今なら流れてくる。
ただ単に事務的にアナウンスするだけではなくて、
こうした曲を聴くと、
「ああ自分は旅に出ているんだ」ということを
それだけでも自覚することができますよね。


そして、なんといっても車窓の千変万化がある。
東京を出れば、有楽町や汐留、品川などのオフィス街をとおり、
神奈川の住宅街を抜け、
小田原では箱根をかすかに眺め、
熱海では温泉街の中を行く。
そしてハイライトでもある富士山を横に新幹線は走る。
また、浜名湖、名古屋の市街地をとおり、
やがて京都の東寺など古寺を見ることができる。
とまぁ、これだけの変化を見せる高速鉄道
ほかにあるといえるのでしょうか。


実は、この日本の鉄道の大きな特徴というのは
そこにあるのだと思うわけです。
その理由は、日本の国土の狭さなどにもあるのだとおもいますが
イギリスの鉄道に乗っていたとき、
イギリス一の車窓と言われるセントカーライル鉄道でさえ
少し退屈に思えたのは、
その車窓の景色の”大味さ”によるものだからではないでしょうか。

そしてそれは車窓に限らず、
車両などについても言うこともできる。
特にリゾート車両について、
たとえば関東であればスーパービュー踊り子であったり
ロマンスカーであったりするもの、
あるいは関西であれば
タンゴディスカバリー伊勢志摩ライナーなどであるものは
たとえば前面展望が可能であったりだとか、
ハイデッカーであったりだとか、
そして何よりカラフルなイラストの塗装であったりとか
非常に凝った作りをしている。
しかし、それに比べてイギリスの鉄道は、というと、
あまりそういう鉄道は見かけないし、
ほとんどの車両が、鉄道会社ごとに統一感を持ったものであったりする。
日本の鉄道とは、このように
ただ乗るだけでも旅情を味わえる、というのだけでなく、
さらに鉄道会社によって風情を引き立てられ、
余計に旅を楽しむことができるようになっている、
というものであることがいえるのではないでしょうか。


このように考えていくと、
日本の鉄道というものがいかに魅力を持ったものか、
少しでも理解することは可能でないかなと思うわけです。
特に昨今自動車依存度が高まっていることも関連して、
旅行に行くときに、マイカーで行く、という人も多いでしょうか、
私が今ここで声を大にしてそうした人たちに理解してもらいたいことは、
パーソナルスペースの延長上の旅行ではない、鉄道旅行でこそ味わえる
さまざまな楽しみというものがあり、
また、それによってこそ味わえる旅情がある、ということなのです。
そしてその旅情こそ日本の鉄道でこそ味わえるものであることを考えると、
実は、魅力ある日本の中にいて、
もっと旅を味わえることができるのにもかかわらず、
それを逃してしまっている人が多いのです。